膝関節の痛み
スポーツ中の膝の痛み
スポーツに積極的に取り組む皆さんにとって、膝の痛みは活動を続ける上で大きな壁となることがあります。練習や試合中に膝が痛むと、思い通りのプレーができないだけでなく、大好きなスポーツそのものを諦めなければならないのではないかと不安になることもあるかもしれません。なぜなら、膝は走る、跳ぶ、止まる、素早く方向転換するなど、スポーツにおいて非常に大切な多くの動きを支えている関節だからです。
スポーツ中の膝の痛みは、単なる一時的なものではなく、体が発している大切なサインです。痛みを我慢して無理な動きを続けると、症状がさらに悪化したり、回復に時間がかかったりすることが少なくありません。お子さんから大人まで、スポーツを楽しむ方の年代や、行っているスポーツの種類によって起こりやすい膝の痛みは様々です。専門的な知識を持ったスポーツ整形外科医に相談し、痛みの原因をしっかりと見つけてもらい、一人ひとりに合った適切な治療とリハビリテーションを行うことが、スムーズな回復とスポーツへの復帰、そして今後の活動を長く楽しむための一番の近道となります。
このページでは、スポーツをされる方に起こりやすい膝の痛みについて、その症状、どのように診断するか、痛みの原因、考えられる病気、そしてどのような治療法があるのかを分かりやすく説明します。
膝の痛みの症状について(スポーツ中の場合)
スポーツ中に感じる膝の痛みは、活動している最中や、練習・試合が終わった後に気づくことが多いです。痛む場所や、どのような時に痛むかで、体のどこに問題が起きているのかを推測することができます。
- 運動している時の痛み:走り始めたり、ジャンプして着地したり、急に止まったり方向転換したりする時に痛む。スポーツを続けていると痛みが軽くなることもありますが、反対にひどくなることもあります。
- 運動後の痛み:練習や試合が終わって少し時間が経ってから痛みが出てくる。筋肉痛かなと思うこともありますが、関節の奥や特定の場所が痛む場合は専門家に見てもらうことが大切です。
- 休んでいる時の痛み:痛みが強くなってくると、スポーツをしていない時や夜寝ている時にもズキズキと痛むことがあります。これは膝の中で炎症が強く起きているサインかもしれません。
- 膝の動きが悪くなる:膝を最後までしっかり曲げたり伸ばしたりするのが難しくなる。
- 膝が引っかかる感じや急に動かなくなる感じ:膝を動かした時に何かが挟まったような感じがしたり、急に膝が伸ばせなくなったり曲げられなくなったりする(ロッキングといいます)場合、膝の中の半月板に問題が起きている可能性があります。また、急に膝がカクンと力が抜けるような感覚(ギビングウェイといいます)は、靭帯の損傷が考えられます。
- 膝が腫れたり熱を持ったりする:膝が普段より腫れていたり、触ると熱く感じたりする場合、関節の中で炎症が起きているサインです。関節の中に水(関節液)がたまっていることもあります。
- 膝から音が鳴る:膝を動かした時に「ポキポキ」「ゴリゴリ」といった音が聞こえることがあります。もし音と一緒に痛みが felt場合、軟骨がすり減っていたり、半月板が傷ついていたりする可能性があります。
これらの症状に気づいたら、早めに専門家に相談することが大切です。痛みを無視してスポーツを続けると、症状が長引いたり、さらに大きな怪我につながったりするリスクが高まります。
膝の痛みの診断方法について
スポーツ中に感じる膝の痛みの原因を正確に調べるためには、皆さんがどんなスポーツをしていて、どのような時に痛むのかといったことを詳しくお伺いし、膝の状態を慎重に調べます。
- 問診:いつから、どのようなスポーツをしている時に、どの辺りが、どのように痛むのか、怪我をした経験があるか、練習はどのくらいの量をしているかなどを詳しくお伺いします。スポーツの種類や練習の仕方、体の使い方なども、痛みの原因を見つけるための大切な情報になります。
- 身体診察:膝が腫れていないか、熱を持っていないか、押すと痛む場所はどこか(圧痛)、膝の曲げ伸ばしはどのくらいできるか(可動域)などを調べます。また、靭帯や半月板が傷ついていないかを調べるために、医師が手を使って膝を優しく動かす特別な検査(徒手検査)を行います。痛む場所や特定の動きをした時の反応を見ながら、何が原因かを推測していきます。
- 画像検査:
- レントゲン検査(X線検査):骨の形や、関節の隙間が狭くなっていないかなどを見ることができます。骨折や、成長期に骨に起こりやすい問題(オスグッドなど)、長年の負担による骨の変形などを診断するのに役立ちますが、軟らかい組織(軟骨や靭帯など)は映りません。
- MRI検査:磁石の力を使って体の内部を詳しく画像にする検査です。レントゲンでは見えにくい軟骨、半月板、靭帯、筋肉、腱などの状態をハッキリと映し出すことができるため、スポーツによる膝の痛みの原因を特定する上で非常に大切な検査です。
- 超音波検査(エコー検査):体に害のない超音波を使って、関節の周りの腱や筋肉、靭帯、関節の中に水がたまっているかどうかなどをリアルタイムで見ることができます。痛みのある場所を動かしながら観察できることもあり、診断の助けになります。注射をする時にも、どこに注射しているかを確認しながら行うガイドとしても使われます。
これらの検査の結果と、問診や身体診察で分かったことを合わせて、スポーツ中の膝の痛みの原因が何であるかを正確に判断します。
膝の痛みの原因について(スポーツ中の場合)
スポーツ中に膝が痛くなる原因はいくつかありますが、大きく分けると「一度の大きな怪我(外傷)」か「スポーツを続けることによる体の使い過ぎ(慢性の負担)」のどちらか、または両方であることが多いです。
- 一度の大きな怪我(外傷):
- 靭帯損傷:ジャンプの着地や、走っていて急に止まった時、他の選手とぶつかった時などに、膝の靭帯が切れたり傷ついたりします。特に、急なストップや方向転換が多いバスケットボール、サッカー、スキーなどで、膝の中にある前十字靭帯を傷つけてしまうことがあります。
- 半月板損傷:膝の中でクッションの役割をしている半月板が、強いひねりや衝撃で裂けたり欠けたりします。スポーツ中の強い力だけでなく、長年スポーツを続けてきたことによる少しずつの負担が原因になることもあります。
- 骨折:強い衝撃が膝に加わって、膝の周りの骨が折れてしまうことがあります。
- スポーツの使い過ぎ(慢性の負担):
- オーバーユース(使いすぎ)症候群:練習の量や強度を急に増やしすぎたり、体に十分な休みを与えなかったり、同じような動きを何度も何度も繰り返したりすることで、筋肉や腱、骨などに無理な負担がかかり続けて痛みが出てきます。
- 体の動かし方やフォームの問題:立ち方や走り方、ジャンプの仕方などに癖があったり、特定の筋肉ばかりに負担がかかるような体の使い方をしていたりすると、膝の一部分に負担が集中して痛みが出やすくなります。
- 体のケア不足:スポーツをする前の準備運動(ウォーミングアップ)や、終わった後の整理運動(クールダウン)、ストレッチなどが足りないと、筋肉や腱が硬くなり、怪我をしやすくなります。
- 成長期の子どもに起こりやすい問題:骨が急成長する時期に、筋肉や腱の長さが追いつかず、スポーツで膝に負担がかかることで痛みが出ることがあります。膝のお皿の下の骨が盛り上がって痛むオスグッド・シュラッター病などがこれにあたります。
- その他の原因:
- 足の形の傾向:O脚やX脚といった足の骨の並び方にも個人差があり、これが膝の一部分に余計な負担をかけてしまう原因となることがあります。
- 筋肉のバランスの悪さや柔軟性のなさ:膝をしっかりと支えるための周りの筋肉(太ももの前や後ろ、お尻の筋肉など)の力が足りなかったり、硬かったりすると、膝に負担がかかりやすくなります。
- 使用している道具や環境:足に合わないシューズを履いてスポーツを続けたり、硬い地面や不安定な場所で繰り返し練習したりすることも、膝の痛みの原因になることがあります。
スポーツ中の膝の痛みは、これらの原因が一つだけでなく、いくつか重なり合って起きていることも珍しくありません。
膝の痛みの病気の種類について(スポーツをする方に多いもの)
スポーツを熱心にされる方に比較的よく見られる膝の病気には、次のようなものがあります。
- 靭帯損傷(特に前十字靭帯損傷):膝がグラグラする感じや、膝が外れそうな感覚が特徴です。この怪我をそのままにしておくと、後から半月板が傷ついたり、軟骨がすり減ってきたりしやすくなります。
- 半月板損傷:膝を曲げたり伸ばしたりする時に痛んだり、膝が引っかかる感じがしたり、急に動かなくなったり(ロッキング)するのが特徴です。スポーツ中の強いひねりや衝撃で傷つくこともあれば、繰り返しの負担で少しずつ傷んでくることもあります。
- 腸脛靭帯炎(ランナー膝):ランニングを長時間する方に多い膝の外側の痛みです。太ももの外側にある腸脛靭帯と大腿骨が擦れることで炎症が起きます。
- 膝蓋腱炎(ジャンパー膝):膝のお皿のすぐ下にある膝蓋腱という部分に、ジャンプやダッシュを繰り返すことで負担がかかり炎症が起きる病気です。ジャンプをたくさんするバレーボールやバスケットボールなどでよく見られます。
- 鵞足炎(がそくえん):膝の内側、脛骨(すねの骨)の上の方に痛みが出ます。ランニングや自転車など、膝を曲げ伸ばしする動きが多いスポーツで負担がかかりやすいです。
- オスグッド・シュラッター病:成長期の子どもや中学生、高校生に多く見られる病気です。膝のお皿の下の骨が盛り上がってきて、運動する時にその部分が痛みます。サッカーやバスケットボールなど、走ったり跳んだりするスポーツをする子によく見られます。
- タナ障害:膝の関節の中にある「タナ」と呼ばれるヒダ状の膜が、膝の曲げ伸ばしで軟骨に挟まったり擦れたりして炎症を起こし、痛みや引っかかり感が出ます。
- 離断性骨軟骨炎:関節の軟骨とその下の骨の一部が、血の巡りが悪くなるなどで壊死し、剥がれてしまう病気です。特に成長期に、投球やジャンプなどをたくさんするスポーツをする子に起こりやすいとされています。
- 膝蓋大腿関節症:膝のお皿(膝蓋骨)と太ももの骨(大腿骨)の間の関節の軟骨が傷んだり、お皿の動きが悪くなったりして痛みが出ます。階段の下りやしゃがみ込みの動作で痛むことが多いです。スポーツでの使い過ぎや、生まれ持った足の形などが影響することがあります。
- 変形性膝関節症:年齢を重ねた方に多い病気ですが、若い頃に大きな怪我(靭帯損傷や半月板損傷など)をした経験があったり、長年スポーツを続けてきたことによる負担が積み重なったりすることで、比較的若い方でも発症したり、将来的に発症しやすくなったりすることがあります。
膝の痛みの治療法(スポーツ中の場合)
スポーツ中に感じる膝の痛みの治療では、ただ痛みをなくすだけでなく、安全に元のスポーツレベルに戻ること、そして再び同じような痛みが起きないように予防することを目指します。どのような治療をするかは、痛みの原因となっている病気の種類、症状がどのくらいひどいか、そして皆さんがどのようなスポーツをどのレベルで行いたいかなど、一人ひとりの状況に合わせて決められます。
- 手術をしない治療法(保存療法):多くの膝の痛みに対して、まず最初に行われる治療法です。
- 安静にして活動量を調整する:痛みの程度に合わせて、一時的に練習を休んだり、練習の量を減らしたりします。全く動かないのではなく、痛まない範囲でできるトレーニングを続けることも、筋力を維持するために大切です。
- アイシング:運動した後や、痛みが強い部分を冷やすことで、炎症を抑えて痛みを和らげます。
- 薬物療法:痛みや炎症を抑えるために、飲み薬や湿布などを使います。痛みが強い時には、医師の判断でより効果のあるお薬が処方されることもあります。
- 物理療法:温めたり(温熱療法)、電気を流したり(電気療法)、超音波を当てたりして、血の巡りを良くしたり、痛みを和らげたり、硬くなった筋肉を緩めたりします。
- サポーターや装具を使う:膝のグラつきを抑えたり、痛む部分への負担を減らしたりするために、サポーターや膝の装具を使います。
- 注射をする:痛みが強かったり、関節の中に炎症が起きていたりする場合に、関節の中に炎症を抑えるお薬(ステロイド)や、関節の動きをスムーズにするヒアルロン酸などを注射することがあります。
- リハビリテーション:スポーツをする方にとって、リハビリテーションは非常に大切です。
- ストレッチ:硬くなった筋肉や腱を伸張させ、体の柔軟性を高めます。
- 筋力トレーニング:膝を支える大切な筋肉(太ももの前や後ろ、お尻、体の中心の筋肉など)を強くします。痛みの原因となっている体の使い方の癖を直し、正しいフォームで筋肉を使えるように トレーニングします。
- バランストレーニング:片足で立ったり、少し不安定な場所で トレーニングしたりして、体のバランスを取る能力を高め、膝が安定するようにします。
- スポーツの動きの練習:痛みがなくなってきたら、ジョギングから始めて、徐々にダッシュ、ジャンプ、方向転換など、皆さんがしているスポーツに必要な実際の動きの練習を増やしていきます。急ぎすぎず、体の状態を確認しながら、段階的にスポーツ復帰を目指します。
- 手術による治療法:保存療法だけでは良くならない場合や、靭帯が完全に切れてしまった場合、重度な半月板の損傷など、手術が必要な怪我の場合に行われます。
- 関節鏡(内視鏡)を使った手術:小さな傷口から細いカメラを入れて行う手術です。膝の中の様子を見ながら、傷ついた半月板を縫い合わせたり、ひっかかる部分を取り除いたりします。体への負担が比較的少なく、回復も早いため、スポーツをする方によく選ばれます。
- 靭帯を再建する手術:切れてしまった靭帯を、自分の体の他の部分の腱などを使って再びつなぎ直す手術です。特に前十字靭帯損傷など、膝の安定性を良くして、安全にスポーツができるようにするために行われます。
当クリニックでは、スポーツをされる皆さんが、できるだけ早く、そして以前と同じかそれ以上のコンディションでスポーツに戻れるように、一人ひとりの体の状態や、目指しているレベルに合わせて、最善の治療計画を一緒に考えてサポートしていきます。スポーツ中に膝の痛みでお悩みの方は、一人で悩まずに、ぜひ一度私たち専門家にご相談ください。