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胸郭出口症候群

はじめに

胸郭出口症候群は、首の付け根から鎖骨周辺にかけての狭い空間(胸郭出口)で、神経や血管が圧迫されることで様々な症状を引き起こす病気の総称です。この領域には、腕や手に向かう重要な神経の束(腕神経叢)や血管(鎖骨下動脈・静脈)が通っており、これらの通り道が何らかの原因で狭くなることで、痛み、しびれ、麻痺、冷感など、多彩な症状が現れます。日常生活に支障をきたすことも少なくないため、早期の診断と適切な治療が重要となります。

胸郭出口症候群の症状について

胸郭出口症候群の症状は、圧迫される神経や血管の種類、圧迫の程度によって大きく異なります。主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。

神経の症状

  • 首、肩、腕、手の痛み
  • 指先や手のしびれ、感覚麻痺(特に小指側)
  • 握力の低下、細かい作業の困難さ
  • 腕のだるさ、重さ
  • 夜間の痛みやしびれの増悪

 血管性の症状

  • 腕や手の冷え
  • 皮膚の色調変化(青白い、または紫色になる)
  • 脈の触れにくさ、または消失
  • 腕の腫れ、むくみ
  • 運動時の痛み

これらの症状は、特定の姿勢や動作(腕を上げる、首を反らす、重いものを持つなど)によって誘発されたり、悪化したりすることがあります。また、症状が現れる場所も、首から肩、腕、手にかけて広範囲に及ぶことがあります。

胸郭出口症候群の診断方法について

胸郭出口症候群の診断は、患者さんの症状や既往歴を詳しく問診することから始まります。その上で、以下のような理学的検査や画像検査などが行われます。

理学的検査

  • アドソンテスト: 腕を後ろに伸ばし、首を患側に回して息を吸い込むことで、橈骨動脈の脈拍が弱くなるか消失するかを確認します。
  • ライトテスト: 腕を90度外転・外旋させた状態で深呼吸をし、同様に脈拍の変化を確認します。
  • ルーステスト: 両腕を90度外転・外旋させ、肘を90度屈曲させた状態で、手を握ったり開いたりする動作を3分間行い、症状が誘発されるかを確認します。
  • モーレイテスト: 鎖骨下動脈を圧迫し、症状の変化を確認します。

画像検査

  • レントゲン検査: 首や肩の骨の異常(頸椎の変形、余分な肋骨(頸肋)の存在など)を確認します。

これらの検査結果を総合的に判断し、他の類似した病気(頸椎椎間板ヘルニア、末梢神経障害など)との鑑別を行いながら、診断を確定します。

胸郭出口症候群の原因について

胸郭出口症候群の原因は多岐にわたりますが、主に以下のものが考えられます。

骨格の異常

  • 元々鎖骨と第一肋骨の間を通る神経や血管のトンネルが狭いことがあります。また鎖骨と第一肋骨の隙間が狭いこともあります。
  • 筋肉や靭帯の異常:
    • 斜角筋の肥大や緊張: 首の筋肉である斜角筋が過度に発達したり、緊張したりすることで、神経や血管を圧迫する。
    • 小胸筋の肥大や緊張: 胸の筋肉である小胸筋の下を通る神経や血管が圧迫される。
  • 姿勢や動作:
    • 猫背や前かがみの姿勢: 胸郭出口を狭めるような姿勢。
    • 腕を上げた状態での作業: 長時間、腕を高く上げる動作を繰り返すことで、神経や血管が圧迫されやすくなる。
    • 重い荷物を運ぶ: 肩や首に負担がかかり、胸郭出口が狭くなることがある。
  • その他:
    • 外傷: 交通事故やスポーツなどによる怪我。
    • 腫瘍: まれに、腫瘍が神経や血管を圧迫することがある。

これらの原因が単独で、あるいは複合的に関与して、胸郭出口症候群を引き起こします。

 

胸郭出口症候群の治療法

胸郭出口症候群の治療は、症状の程度や原因、患者さんの状態に合わせて、保存療法と手術療法が選択されます。治療の第一選択はリハビリテーションです。

保存療法

  • 安静: 症状を悪化させる動作や姿勢を避け、安静を保ちます。
  • 薬物療法: 痛みや炎症を抑えるための鎮痛薬や筋弛緩薬、神経の痛みを和らげる薬などが用いられます。
  • リハビリテーション: 圧迫の原因となっている筋肉のストレッチや筋力トレーニング、姿勢矯正などを行い、胸郭出口を広げることを目指します。具体的には、肩甲骨を安定させる運動、首や肩の筋肉を緩めるストレッチ、正しい姿勢を保つためのトレーニングなどが行われます。

手術療法

保存療法で十分な効果が得られない場合や、血管性の症状が重篤な場合には、手術が検討されます。手術の目的は、胸郭出口を広げ、神経や血管への圧迫を取り除くことです。主な手術方法としては、以下のものがあります。

  • 斜角筋切除術: 斜角筋の一部または全部を切除し、神経や血管の圧迫を解除します。
  • 第一肋骨切除術: 第一肋骨を切除することで、胸郭出口を広げます。

手術方法は、患者さんの状態や圧迫の原因によって選択されます。手術後も、リハビリテーションを行い、機能回復を目指します。

おわりに

胸郭出口症候群は、日常生活に大きな影響を与える可能性のある病気です。早期に適切な診断を受け、根気強く治療に取り組むことが大切です。もし、首から肩、腕、手にかけての痛みやしびれなどの症状にお悩みでしたら、お気軽に専門医にご相談ください。

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