メニュー

肩周りの痛み

はじめに

肩は、人間の体の中でも特に可動域が広い関節であり、日常生活の様々な動作において重要な役割を果たしています。しかし、その複雑な構造と広い可動域ゆえに、痛みが生じやすい部位でもあります。「肩周りの痛み」といっても、その原因は一つではなく、様々な疾患や状態が考えられます。

肩の痛みは、年齢や生活習慣、職業、スポーツ歴などによって起こりやすい病気が異なります。単なる筋肉痛と思われがちな肩の痛みの中には、放置すると日常生活に支障をきたす可能性のある疾患も含まれています。このページでは、肩周りの痛みの概要、症状、診断方法、原因、病態の種類、そして治療法について、幅広く解説していきます。

肩周りの痛みの症状について

肩周りの痛みは、その原因によって感じ方や現れる部位、伴う症状が異なります。

主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 痛み: 肩の特定の部分、あるいは肩全体に感じる痛みです。安静時、運動時、夜間など、痛みの現れるタイミングや程度は様々です。
  • 可動域制限: 肩を上げたり、回したりする動作がスムーズにできなくなることがあります。日常生活での着替えや物を取る動作などに支障が出ることがあります。
  • しびれ: 首や腕、手指にかけてしびれを感じることがあります。これは、神経が圧迫されている場合に起こりやすい症状です。
  • 脱力感: 肩や腕に力が入りにくくなることがあります。物を持ち上げたり、支えたりする際に困難を感じることがあります。
  • 肩甲骨周りの痛み: 肩関節だけでなく、肩甲骨周辺に痛みを感じることもあります。
  • ひっかかり感: 肩を動かす際に、関節の中で何かが引っかかるような感覚を覚えることがあります。
  • 夜間痛: 夜寝ている時に、肩の痛みで目が覚めることがあります。特定の姿勢で痛みが増強することもあります。

これらの症状は、単独で現れることもあれば、複数同時に現れることもあります。痛みの程度や症状の現れ方を詳しく把握することは、原因を特定する上で重要な情報となります。

肩周りの痛みの診断方法について

肩周りの痛みの診断は、医師による丁寧な問診と理学的検査が基本となります。必要に応じて、画像検査やその他の検査が行われることもあります。

  • 問診: 患者さんから、いつから、どこが、どのように痛むのか、痛みの程度、痛むタイミング(安静時、運動時、夜間など)、日常生活での支障、既往歴、スポーツ歴、仕事内容などを詳しく聞き取ります。
  • 理学的検査: 医師が実際に肩関節を動かし、可動域の制限や痛みの誘発される動作を確認します。肩の特定の部位を触診したり、筋力テストやを行ったりすることもあります。
    • 腱板損傷のテスト: 特定の腕の動かし方で痛みが生じるかなどを確認します。
    • インピンジメント症候群のテスト: 肩を上げた際に、骨と腱がぶつかることで痛みが生じるかなどを確認します。
    • 肩関節不安定症のテスト: 関節が不安定かどうかを確認します。
  • 画像検査:
    • レントゲン検査: 骨の異常(骨折、変形、石灰沈着など)を確認するのに有用です。
    • MRI(磁気共鳴画像)検査: 腱板損傷、靭帯損傷、関節唇損傷、腫瘍など、軟部組織の詳細な状態を評価するのに非常に有効です。

これらの検査結果を総合的に判断し、肩周りの痛みの原因となっている疾患や状態を特定します。

肩周りの痛みの原因について

肩周りの痛みの原因は多岐にわたり、年齢や活動内容によっても異なります。

主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 腱板損傷(けんばんそんしょう): 肩の動きを安定させ、腕を上げるなどの動作に関わる4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)の腱が断裂したり、部分的に損傷したりするものです。加齢による変性や、転倒、スポーツなどによる外力が原因となることがあります。
  • 肩関節周囲炎(五十肩、四十肩): 肩関節とその周囲の組織に炎症が起こり、痛みと可動域制限が生じる病気です。原因ははっきりしないことが多いですが、加齢や肩の使いすぎなどが関与すると考えられています。
  • インピンジメント症候群: 肩を上げる際に、肩峰(肩の骨の突起)と腱板や滑液包が挟み込まれ、炎症や痛みが起こるものです。繰り返しの肩の運動や、肩の使いすぎが原因となることがあります。
  • 肩関節不安定症: 肩関節が正常な位置からずれやすい状態です。脱臼を繰り返す場合や、わずかな外力で亜脱臼を起こすことがあります。外傷や生まれつきの関節の緩さが原因となることがあります。
  • 石灰沈着性腱炎(せっかいちんちゃくせいけんえん): 腱板の中にリン酸カルシウムの結晶が沈着し、炎症と激しい痛みを引き起こす病気です。原因は不明な点が多いですが、40〜50代の女性に多い傾向があります。
  • 頸椎疾患(けいついしっかん): 首の骨(頸椎)の神経が圧迫されることで、肩や腕に痛みやしびれが生じることがあります(頸椎椎間板ヘルニア、頸椎症など)。
  • 胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん): 首から胸にかけての神経や血管が圧迫されることで、肩や腕、手指にしびれや痛み、だるさなどが生じる病気です。
  • その他: 筋肉痛、神経痛、内臓疾患(心臓疾患など)が原因で肩に痛みが放散することもあります。

このように、肩周りの痛みの原因は非常に多岐にわたります。正確な診断のためには、専門医による診察が不可欠です。

肩周りの痛みの病態の種類について

肩周りの痛みは、その原因となる疾患や状態によって様々な病態に分類されます。

  • 腱板損傷:
    • 部分断裂: 腱の一部が損傷している状態です。
    • 完全断裂: 腱が完全に断裂している状態です。
    • 急性損傷: 外傷などにより急に起こった損傷です。
    • 慢性損傷: 長年の使いすぎや加齢により徐々に進行した損傷です。
  • 肩関節周囲炎(五十肩、四十肩):
    • 炎症期: 強い痛みがあり、可動域制限が徐々に進行する時期です。
    • 拘縮期: 痛みは落ち着くものの、肩関節の動きが著しく制限される時期です。
    • 回復期: 徐々に可動域が改善していく時期です。
  • インピンジメント症候群:
    • 腱板炎: 腱板に炎症が起こっている状態です。
    • 滑液包炎: 肩峰と腱板の間にある滑液包に炎症が起こっている状態です。
  • 肩関節不安定症:
    • 外傷性不安定症: 脱臼などの外傷が原因で起こる不安定性です。
    • 非外傷性不安定症: 生まれつきの関節の緩さや、繰り返しの動作により徐々に起こる不安定性です。
  • 頸椎疾患:
    • 頸椎椎間板ヘルニア: 椎間板の一部が飛び出し、神経を圧迫している状態です。
    • 頸椎症: 加齢などにより頸椎が変形し、神経を圧迫している状態です。

これらの病態の種類を理解することは、適切な治療法を選択し、予後を予測する上で重要です。

肩周りの痛みの治療法

肩周りの痛みの治療法は、原因となっている疾患や状態、症状の程度によって異なります。当院では保存療法が中心となり、手術が必要な場合には連携している病院に紹介となります。

保存療法

多くの肩の痛みは、手術を行わない保存療法で改善が見込めます。

  • 安静: 痛みが強い時期は、患部を安静に保つことが重要です。無理な運動や肩に負担のかかる動作は避けます。
  • アイシング: 炎症を抑えるために、患部をアイシングします。1回15〜20分程度、1日に数回行うと効果的です。
  • 薬物療法: 痛みを和らげるために、湿布や塗り薬などの外用薬や、痛み止め(内服薬や注射)が用いられます。炎症が強い場合には、ステロイド薬が使用されることもあります。
  • リハビリテーション: 痛みが落ち着いてきたら、肩関節の可動域を改善するためのストレッチや、肩周りの筋肉を強化するトレーニングを行います。正しい姿勢や体の使い方を学ぶことも重要です。
  • 装具療法: サポーターやアームスリングなどを使用することで、肩関節を安定させ、負担を軽減することがあります。
  • 注射療法: 痛みがなかなか改善しない場合、炎症を抑えることを目的に関節内や周囲に注射することがあります。

手術療法

保存療法で十分な効果が得られない場合や、腱板の完全断裂、反復性脱臼など、病態によっては手術が検討されます。

  • 腱板修復術: 断裂した腱板を縫い合わせる手術です。近年では、関節鏡を用いた低侵襲な手術(内視鏡手術)が主流となっています。
  • 肩関節鏡視下手術: 関節鏡を用いて、関節内の状態を確認しながら、腱板修復、インピンジメントの原因となる骨棘の切除、関節唇の修復などを行う手術です。
  • 肩関節制動術: 反復性脱臼に対して、関節を安定化させるための手術です。
  • 人工肩関節置換術: 関節の変形が進行し、痛みが強い場合などに行われる手術です。

手術後のリハビリテーションは、機能回復のために非常に重要です。医師や理学療法士の指示に従い、適切な運動療法を継続する必要があります。

おわりに

肩周りの痛みは、日常生活に大きな影響を与える可能性があります。原因を特定し、適切な治療を行うことが重要です。もし、肩に痛みを感じたら、我慢せずに早めに医療機関を受診し、専門医の診断を受けるようにしてください。また、日頃から適切な運動やストレッチを行い、肩に負担のかからない生活習慣を心がけることが、予防につながります。

 

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME